砂を噛む

1年が始まり全国ツアーが終わった。今年はどういう年にしたいだとか言葉にして意気込むほどの目標も特にないけど、とりあえず「ソファで寝ない」くらいから始めたい。自分の中には心身の疲れを癒すための睡眠と、何かを無視するための睡眠がある。通り過ぎていく時間や、側に転がっている課題をとりあえず無視して目を閉じる。夢の中にいるのかどうか定かではない状態を維持しながら翌日へとワープする。ダリは指に挟んだスプーンを気付けに夢の中を捉えようとしたらしいが、別に絵に描かなくていいので永遠に夢を見続けていたい。そういう気分でワープした次の朝は、SF映画におけるコールドスリープから目覚めた人間のリアクションが大抵最悪なのと同じで、心身ともに疲れきった朝から1日が始まってしまう。

自分が小学生だったころ、ある日を境に地球が滅亡するのではないかなんてことがまことしやかに囁かれていて、あのころの人間はマジで馬鹿だったんじゃないかと思う。小学生なんてさらに馬鹿なもんだから、クラスメイトが自暴自棄になりお小遣いを使い果たしたりしているのを横目に、ふーん終わるんだくらいの気持ちでいたのをなんとなく憶えている。誰も見たことがないものに恐怖を感じるのは生理的な現象で、世紀末のあの頃は純粋に明日そのものが恐ろしくって、おろおろする人たちの懐にすすすっと悪徳商人が割り込んでくるのを止める人がそんなにいなかった。

自分のためだけに生きられるほど人間は強くなくて、どうしても死の恐ろしさを忘れてしまう自分のもとに何か明確な意義があって欲しいと思う。自分がくしゃくしゃになってしまうような、ひどく美しい1日に出会いたい。お小遣いを全部使い果たして、それでも生きてることに心底残念そうな顔をしていたクラスメイトを思い出す。