お雑煮

行きたかったライブにも行けず、最近は家で絵ばかり描いてる。
絵を描くのは難しい。ここ数日を振り返ると、実際に作業してる時間よりも考えてる時間の方が圧倒的に多かった。ここ数年の活動サイクルから、「レコーディングの直後に描画を詰める」という流れが出来上がりつつあるんだけど、レコーディングの最中は音のことしか考えていないので、トラックダウンが終わる度にいつも、まっさらで何もない部屋に放り込まれるような感覚に陥る。僕は18歳の頃1年間だけ美術の学校に通ってたんだけど、その頃よりもけっこうまじめにやってると思う。

僕がニコニコ動画に音楽を投稿し始めてから今年で恐らく7年になる。ボカロ曲は5年前だけどそれ以前にも自分で歌っていたものを投稿していた。高校生だった当時は音楽と絵ばかりに熱中して、それ以外には全く興味を持てず、自分で思い返してもやりすぎだった気がする。

音楽を作り始めたのは恐らく僕が14歳くらいのころで、その当時組んでたバンドのメンバーでお年玉を出し合ってKORGのD3200というMTRを買った。あまりはっきりとは覚えてないが、5人がひとりずつ2万円を出したので合計10万円は確実にしたはず。これはバンドの意思というより僕個人がどうしても欲しかったもので、半ば強制的にお金を徴収した記憶があり、当時から良心の呵責を少しばかり感じていたので、後にメンバーにはお金を返した…と思う。ネットで注文していたそれが僕の家に届き、いつも集合場所にしていた友達の家まで両手に抱えて歩いて持っていったのを覚えている。

それからしばらくしてパソコンを使って音楽を打ち込むことを覚えた。操作方法もよくわからず数曲録音した後は適度に飽きられ放置気味のMTRだったが、そいつにこの打ち込みファイルを同期させられたら可能性が広がるんじゃないかと思いついた。しかし当時の知能指数2である自分にはその方法がさっぱりわからず、説明書をみたところで何語ともつかない専門用語の羅列に呆然としつつ、ない知恵と知識を振り絞った結果、「パソコンとMTRを繋ぐ媒体にする為だけにヤマハのQY100というハードシーケンサーを新たに買う」という回りくどい結論に至った。試行錯誤の末にこの思惑はなんとか成就し、打ち込み音源にギターと歌を重ねられるようになり、作曲の楽しさが倍増したはいいが、このQY100が思った以上に電力を消費することに気づき、1時間もすると電池が切れてしまうという新たな問題に直面した。またまたない知恵と知識を振り絞った結果、こんどは「100均で10本1セットの電池を財力が許す限りに買い込む」という愚行に走り、充電アダプタを買えば一発で解決する問題に気づかないまま音源制作に励んでいた。QY100は確か一度に単三電池を4本セットせねばならず、そんなの初代ゲームボーイ以来だったので大層驚いた記憶がある。

結局何が言いたいかというと、あれからもう7年も経ったのかってこと。未だについこの間のことみたいに感じるのは、この話を生放送とかでも定期的に言語化しているからなのかもしれない。14歳から高校卒業までの間で、ラフなものも含めるとおよそ100曲くらい作った。そのどれもがいい曲だったとは言えないし、めちゃめちゃなものも多分に含まれているが、思い返すとよくやってたよなあと思う。

今でこそ「ニコニコインディーズ」なんて言葉があり、ある程度コミュニティとして機能してるみたいだけど、当時はそんな言葉もなかった。ただ黙々と誰が喜ぶかもわからない雑な音源に絵をのせて投稿して、検索の邪魔だとかでウザがられ、再生数なんかも行って2000とかの次元だった。そんな中でも僕と同じように自主制作音源を投稿している人は希少ではあったが確かにいて、何となく意識したり、影響を受けたり、コミュニケーションをとったりすることもなくはなかった。あの頃から今でも交流が続いている人もいるけど、大抵は霧散して消えてしまった。彼らは今何をしているのだろうか。

インターネットを介した匿名でのコミュニケーションは、広大であると同時に希薄でもある。お互いの名前も知らなければ顔も見たことがない。何となく繋がってるつもりではいても、SNSやレンタルサーバーのサービスが終了してアカウントごと消えてしまい、二度と連絡が取れなくなるなんてこともあり得る。そうやって断絶してしまった人とは、もし道ばたで偶然ばったり出会ったとしても気づかないし、まかり間違って知り合いになったとしても気づかない可能性が高い。どこかで生きているのか、または既に死んでしまっているのか、はたまた実はすぐそばにいるのかさえもわからない彼らは、聖性を帯びた影になり、脳裏にその輪郭だけ焼き付けていなくなる。

当然これからも生活は続いていくので、過去を思い返すことも、思い返す間もなく忘れていくようなことも増えていくだろうけど、まあなんとなくやっていこうとおもう。予想外に長文になってしまった。