だだっ広い荒野を歩いている。
だだっ広い荒野だ。右とか左とか、前とか後ろとか、そういう目印が一切ないところだ。
雨は降らず、自分の他に人はいない。
地平線の果てるところに、何かある気配はない。
砂のやけた匂いと、遠くで燻るかげろうばっかりのところだ。
それを僕らは歩くのだ。
後何歩あるけばとか、影がどのくらい伸びたらとか、わかりやすい目印を自ら立てる。
それを僕らは歩くのだ。
酵母が育つ様とか、ごつい木の根が伸びる様とかを想像しながらだ。
僕らは考えるのを止める。
目印に向かって歩くだけの、気味の悪い生き物になる。
気味が悪く、つまらない。最早死んでいるようなものだ。
僕ら歩いている間は死んでいるも同然なのだ。
人権は無い。愚痴を零すこともままならない。
硬い砂と、水の涸れた跡を踏み、怠惰を忘れることしか出来ない。
目印に辿り着いて漸く、気味の悪い魔物は砕け散り、木々が生い茂る様を何となく実感することが出来る。
それまでは死んでいるも同然だ。